「お時間をいただきたい」はビジネス現場ではよく使われる表現です。特に上司や先輩、あるいは取引先など、自分より立場が上の方に相談や依頼をする際に活用されます。相手の都合を考慮しないまま一方的に要望を伝えてしまうと、失礼と思われる可能性があるため、「お時間をいただきたい」と一言添えることで、相手への敬意を示しながらお願いできるのです。
一方、口頭のやりとりであれば「お時間をいただきたいのですが…」という形でも失礼には当たりませんが、ビジネス文書やメールでは、より改まった敬語フレーズを用いることが一般的です。文字だけでしか相手に敬意を伝えられない分、形式を整えた言葉遣いが求められるからです。
本稿では、「お時間をいただきたい」の意味や使い方をまとめつつ、ビジネスメールや手紙、挨拶など、シーンごとの文例を紹介します。人間関係の維持や円滑なコミュニケーションのために、ぜひ参考にしてみてください。
「お時間をいただきたい」の意味
「お時間をいただきたい」は、「あなたの大切な時間を少し割いてほしい」という依頼を丁寧に表すフレーズです。
ただし「時間をもらう」「時間を割いてもらう」という言い回しをそのまま使うと、率直すぎて相手に失礼にあたる場合もあります。そこで「お」や「いただく」などの敬語を付け足すことで、へりくだった姿勢を示せるわけです。
「お時間をいただきたい」が使われる場面
会話・電話応対
会話や電話など直接やりとりをする場合、「お時間をいただけますか」「お時間をいただきたいのですが」という口調で十分に礼儀正しく聞こえます。返答をすぐ得られる場であれば、この程度の表現でも失礼にはなりにくいでしょう。
ビジネスメール・文書
メールや手紙などでは、直接相手の表情や反応を確認できないため、「お時間をいただきたく存じます」「お時間をいただければ幸いです」など、より丁寧な言い回しが好まれます。文字だけでしか敬意を示せないからこそ、堅い表現の方が望ましいのです。
「お時間をいただきたい」のNG例
以下のような表現は、配慮が足りなかったり、言葉足らずで相手に圧迫感を与える可能性があります。
- 「お時間をいただきたい。」
- 「お時間を割いてください。」
- 「お時間を貰ってもいいですか。」
- 「お時間をいただけなければ困ります。」
- 「お時間をいただきたいのですが恐縮です。」
- 「お時間をいただければ恐れ入ります。」
- 「お時間をいただければありがとうございます。」
また、上司や取引先に対して、前置きなく「お時間をいただきたい!」と宣言するのは当然ながら失礼です。相手を気遣う一言を添えるだけで、相手の負担感は軽減されます。
より丁寧な言い換えと使い方
「お時間をいただきたい」を、さらに丁寧に表現する場合は次のようなフレーズがあります。
- 「お時間をいただきたく存じます」
- 「お時間をいただければと存じます」
- 「お時間をいただければ幸いです」
- 「お時間を頂戴できればと存じます」
- 「お時間をいただけますでしょうか」
「お時間をいただきたい」という言葉を使う際には、常に相手の立場に配慮し、お願いする姿勢や感謝の気持ちを忘れないことが重要です。
シーン別の使い方
メールでの使い方
メールや文書で使う場合は、なるべく丁寧な敬語に言い換えるほうが望ましいです。直接顔を合わせないため、相手への敬意は文面で表すしかないからです。
挨拶の場で
相手と会った瞬間に「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」と伝えると、お互いの距離感をぐっと近づけるきっかけになります。
手紙で
手紙でも同様に、文頭や冒頭に「貴重なお時間をいただき」と書き、感謝やお詫びの意を強調するのが基本的なマナーです。
上司への報告・相談
上司は常日頃からやり取りをしている相手ですが、それでも忙しい中、時間を割いてもらうことには変わりありません。まずは「急なお願いで恐縮ですが」「ご多忙中恐縮ですが」といったクッション言葉を入れてみましょう。
取引先への依頼
取引先や社外の方には、特に丁寧な導入が必要です。時間を作ってもらうという発想に加え、「日程の候補をいくつかご教示ください」といった表現で相手に選択肢を提示すると、さらにスムーズにアポが取りやすくなります。
例文
ここからは「お時間をいただきたい」を使った文例をご紹介します。上司向け、挨拶文、取引先向けなど、状況に応じてアレンジしてください。
- お礼(挨拶)
「先日は打ち合わせに際して貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。」 - 取引先(訪問)
「もしよろしければ、近いうちに一度面談のお時間を頂戴できればと存じます。いくつか候補日程をお知らせいただければ幸いです。」 - 手紙(案内)
「弊社セミナー後、ささやかな懇親会を予定しております。お時間をいただけるようでしたら、ぜひご参加をご検討くださいませ。」 - メール(アポイント依頼)
「このたび新たに担当となりました、株式会社XYZの森田と申します。突然ではございますが、来週15日の午前中に貴社をお訪ねしたいと存じます。お時間いただけますでしょうか。」 - 手紙(相談)
「ご提案内容について詳しくお伺いしたいと考えております。一度お時間をいただきませんでしょうか。できる限りそちらの日程に合わせます。」 - 上司(報告)
「山岡課長、ご多忙のところ恐縮ですが、新規取引の経緯についてご相談したいことがございます。今週中に30分ほどお時間をいただきたいのですが、いかがでしょうか。」 - 取引先(面談後のお礼)
「本日はお忙しい中、面談のお時間をいただきありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。」 - 上司(打ち合わせ依頼)
「川田部長、進行中の案件に関して協議したい点がございまして、来週どこかで打ち合わせのお時間をいただいてもよろしいでしょうか。」 - 挨拶(初対面)
「本日は初めてお目にかかるにもかかわらず、お時間をいただき大変ありがたく思います。」 - メール(訪問提案)
「平素より大変お世話になっております。株式会社HJKの新担当・一条と申します。改めてご挨拶を兼ね、来週あたりにそちらへ伺いたいのですが、お時間いただけますか。」 - 取引先(候補日程の確認)
「お差し支えなければ、来週の月~水曜のいずれかでお時間をいただきたいと存じます。ご都合はいかがでしょうか。」 - 手紙(来社依頼)
「今回のプロジェクト内容を直接ご説明したく、弊社へお越しいただくお時間がいただけないかと考えております。突然のお願いで恐縮ですが、どうぞご検討いただけますようお願いいたします。」 - 挨拶(対面当日)
「このように直接お会いしてお話しできる機会を設けていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。本日は貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます。」 - 上司(目通しの依頼)
「藤井課長、恐縮ですが、Z社向け提案書に目を通していただけるお時間はございますか。もし可能でしたら、今週中に一度拝見いただきたく存じます。」 - 手紙(お礼とお詫び)
「先日は失礼も顧みず、貴重なお時間をいただいてしまい誠に申し訳ございませんでした。深く感謝するとともに、お詫び申し上げます。」 - 取引先(電話確認)
「それでは、今週中に改めてお電話いたしますので、お時間いただけますかどうか、その際にご都合をお伺いできればと思います。」 - メール(市況報告)
「最新の市況動向をご報告したく、数十分ほどお時間をいただけないかと考えております。よろしければ候補日程をいくつか挙げていただければ幸いです。」 - 挨拶(会った瞬間に)
「石原様、本日はお忙しいところ、お時間をいただき恐縮です。短い間ですが、どうぞよろしくお願いいたします。」 - 取引先(訪問日確定)
「3月10日の13時にお伺いしたいと存じます。もしご都合が変わりましたら、お手数ですがご連絡いただけますと幸いです。」 - 上司(対面相談)
「川田部長、お手すきのときに15分ほどお時間をいただきたいのですが、今よろしいでしょうか。」 - メール(初回挨拶と興味表明)
「先日の交流会で名刺交換させていただきました株式会社ABCの吉沢と申します。御社の製品を拝見し、大変興味を持ちました。一度お時間をいただき、詳しいお話を伺えればと思いますが、ご都合はいかがでしょうか。」 - 挨拶(終了時点)
「本日の商談の締めくくりに、改めてお礼を申し上げます。貴重なお時間をいただき、心から感謝いたします。」 - 手紙(返信依頼)
「ご多忙中恐縮ですが、日程のご都合を同封のはがきにてお知らせいただければ助かります。お時間いただけるかどうか、ご検討のほど何卒よろしくお願いいたします。」 - 上司(ミーティング)
「新プロジェクトの進捗を報告したいのですが、山岡課長のお時間をいただきたいと思っております。来週末あたりで30分ほどいかがでしょうか。」 - 取引先(工場見学)
「勝手なお願いではございますが、1時間程度工場を拝見できるお時間をいただけないかと考えております。ぜひご検討いただければ幸いです。」 - 手紙(再度のお願い)
「万が一、弊社にお越しいただくのが難しいようであれば、私のほうからそちらへ伺います。無理なお願いとは存じますが、何卒よろしくお願い申し上げます。」 - 挨拶(面談開始時)
「本日は貴重なお時間をいただき、面談という形でお話しできる機会を賜り、大変ありがたく思います。」 - 上司(資料確認依頼)
「藤井課長、恐れ入りますが、先日まとめたレポートを確認していただきたく存じます。15分ほどお時間をいただきたいのですが、ご都合いかがでしょうか。」 - メール(打ち合わせ依頼)
「先日ご依頼いただきましたお見積りが完成しました。お忙しいところ恐縮ですが、一度打ち合わせのお時間をいただきたく存じます。ご都合はいかがでしょうか。」 - 手紙(報告のお礼)
「先日は新サービスのご説明にお時間をいただき、心より感謝申し上げます。いただいたご意見をもとに検討を進める所存です。」
まとめ:「お時間をいただきたい」を使いこなすコツ
営業活動や日常業務で何かと使う「お時間をいただきたい」ですが、最も大切なのは“感謝の気持ち”と“相手の都合を考える姿勢”です。忙しい相手の貴重な時間を自分のために使ってもらうのですから、その時間は相手の人生の一部であり、いわば命の切り売りともいえます。
「ありがとうございます」と言葉にして初めて、相手にも自分にもポジティブな感情が生まれます。ビジネスはもちろん、すべての人間関係において、相手の時間を大切にする意識を持ち続けたいものです。そして「お時間をいただきたい」と申し出るときは、その意識をきちんと伝えられるよう丁寧な言い回しを心がけましょう。
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